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You don't know me
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Aug 4

井戸浩平について記す。
 私には及びもつかないという点で、彼は高藪や飾磨以上の人物であった。精神のところかまわず深い穴を掘り、自らそこへ身を投げ続ける彼の生きざまを見ていると、我々が弄んでいる怨念など取るに足りないものだと思えてくる。まさに精神衛生上の茨の道を、彼は魂から血を流し、涙を流し、汗を流し、ほかに何だかよく分からない汁をいっぱい流して、ひいひい言いながら生きていた。いつ壊れるか分からないそれでも決して壊れないというぎりぎりの緊張感から、我々は彼に一目置かざるを得なかった。
 普段の彼は言葉少なである。そうして世間のあらゆるものに対する容赦のない怨念をじくじくと培養している。時にそれが噴出し、彼は凄まじい気炎を吐くが、あとになってその気炎を吐いた自分を軽蔑し罵倒し、より一層深い泥沼へと身を沈め、そうして我々でさえ溜め込むのに躊躇するような怨念をさらに溜め込むのである。私はそこに悪夢のような循環を見た。まるで彼は苦行に励む修行僧のように生きていた。
 たまにはちょっと休んだらどうかと、さすがの飾磨も漏らすことがあった。「凹んでいるやつに言ってやることなど何もない」と言いながら、彼にも占有を気遣う心はある。しかし井戸にしても、休めるものなら休むに違いない。休めないから井戸なのである。

―森見登美彦『太陽の塔』p138より

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